やってしまった
40代の頃でしょうか、派遣作業中に隣の席で作業していた方が体調を崩されて休みがちになっていました。
隣の席ということもあり、昼食時一緒に出掛けたり、ちらほら世間話もしていたので少し大丈夫かなと思っていたんです。
実は僕も何故か現場の雰囲気になじめずに具体的には説明しにくいのですが、変なプレッシャーを感じるというか凄く作業がしにくい何かを感じていました。こんな事は非常に珍しいのでどうしたものかと思いながら毎日の作業を進めていました。
ある時、夜8時ごろにトイレに席を立ちました。作業部屋から出て同じフロア内の廊下を数十メートル進んだところにあるトイレにて用を足し、作業部屋に戻る途中の廊下の床がぐにゃぐにゃにゆがんだように感じて真っ直ぐ歩けなくなってしまいました。
何とか作業部屋に向かって自席についたのですが、肘をついたまま動けなくなってしまったんです。
意識が飛んだというか金縛りにあったというかとにかく自分の身体が固まってしまって動けない状態でした。
しばらくして周りの景色が見えだして上半身が動かせるようになり、時計を見ると10分ほど動けなかったみたいです。
まずいなと思い、派遣会社の社長に電話を入れることにしました(この時お世話になっていた派遣会社の社長は家族ぐるみで仲良くしてもらっていた友達でいつも親身になって相談に乗ってくれていました。この女性のおかげで僕は命拾いをします。)。
僕は電話口で「疲れが溜まったんかな。ちょっと気を失ってたみたい。連絡だけ入れといた方がいいと思って」と言ったとたん、「どうしたん。あんた何があったの?今から迎えに行くからそのまま待ってて!」と非常に慌てた感じで電話を終えて数十分後に派遣会社の相談役と2人で迎えに来てくれました。
この相談役の方も常に仲良くして下さり当時お世話になっていた方でした。社長からの指示のまま現場長の方に体調がすぐれないので今日はこれで退社する旨を伝え、ビルの入り口付近に向かったのだと思います。ここの部分、はっきり覚えていないんです。現場長の方もどこかしら僕の顔を見て「どうしたんですか?大丈夫ですか?」って言っておられましたが、どうしてかはその時は分かりませんでした。
派遣会社の社長は大慌てで僕のそばに駆け寄り、「何があったの?さっきの電話言葉になって無かったよ!何を話しているかも聞き取られへんかったよ!」と言われ、相談役と社長に抱えられるように社長の車に乗せて頂きました。
僕自身はちょっと疲れちゃったかなぐらいだったんですが、社長を相談役には失語症を心配されるほどだったみたいです。
帰りの車内で社長から見た今の僕の状態がどれほどいつもの僕と違うかを伝えられ、愕然としてまだ死ぬわけにはいかないと涙が止まらなかったのを覚えています。
とりあえず今日、明日は休んで週末に病院に行って診断書を貰ってくるように言われ、派遣作業は即打ち切りとのことでした。家に送り届けて貰う頃には言葉も大分伝わるようになり、社長と相談役にはとにかく一安心だけどしばらく安静にしてと言われその日は自宅の前にてお別れしました。
帰宅時には大分落ち着いてきたというかずいぶん体調が楽になっていたのですが、出迎えてくれた嫁は社長から連絡を貰っていたみたいでかなり心配していたと思います。いつもと違う感じとだけ僕に伝え、僕に抱き着いてきたのを覚えています。
週末になり朝から体調も良くなったように思い、一応診断書だけ貰ってくると嫁に伝えて病院に行こうとすると嫁が一緒に行くと僕から車のキーを取り上げました。仕事人間の嫁が仕事を休んで病院に着いてくるなんてよほど見た目に心配なんかなと思いました。
近所の病院に着き、診察を受けて診断書を出してもらいました。
身体も自由に動くし気分もかなり良かったので体調も戻っているものと思っていたのですが、「今の血圧とご主人のお話から気を失ったときは恐らく血圧が200を超えていたと思います。あと1時間現場で作業していたら危なかったでしょうね。」と言われぞっとしました。凄く気分がよく体調が回復したと思っていた僕の血圧は180を超えていたのです。
糖尿病のことも伺い、この時初めて不摂生の怖さを実感しました。
生活費の心配もあったのですが、しばらく安静にさせて頂くことにしました。
泣きそうな顔で僕に話しかける嫁をみて悪いことしたなとつくづく反省しました。でも、独立してから長い間、収入面で不安定な日々が続き、そのことが僕の1番のストレスになっていることも分かっていたので、安静にしながらも常に生活費どうしようと不安でたまりませんでした。
派遣会社の社長に診断書を提出に伺い、半ば泣きそうな顔をして僕に話しかける彼女に素晴らしい友達でいてくれることを感謝しながら迷惑をかけてしまったことをお詫びして帰宅しました。